“ちゃっかり”を、せこいと思うのは愚かである。
僕が社会人になった頃、年配の方に多かったと思うが、
コピーを取ることをよく「ゼロックスする」と言っていた。
ゼロックス(富士ゼロックス)というのは、コピー機
のメーカー(商品名でもある)であるのだが、
リコー製でもキヤノン製でも
なぜか彼らは「ゼロックスする」と言う。
もっとも無理もないことで、ゼロックスは
1960年代に業界初の普通紙コピー機として登場したのだ。
オフィスにあったコピー機はゼロックスが多かったのだろう。
たぶん彼らの中では、コピー機といえばゼロックスという
イメージが刷り込まれていたはずである。
携帯音楽プレーヤーなんて言葉を使わなかった時代、
(当時はヘッドフォンステレオなんて言っていたっけ?)
カセット携帯音楽プレーヤーのことを、多くの人が
ウォークマンと代名詞のように言っていたのと似ている。
でもウォークマンはソニーの製品である。
さくっと言うならば、このように
○○○といえば△△△(商品名やブランド名など)という
ことを刷り込むための手法をポジショニングというが、
言ってみれば、消費者にいかに優位なレッテルを
貼ってもらうかを行うマーケティングである。
この情報過多の環境の中でメッセージを届けるための、
有効な方法やケーススタディについては
最近、復刻された「ポジショニング戦略[新版]」を
読むとよく分かる。僕もよく広告のアイデアを練る時に
ポジショニングという手法は利用する。というか重宝している。
ポジショニングというのは、なにも商品に限った
ことではなく、レッテルを貼ってもらうという
ことでは、国でも人でも使える方法なのだ。
そこのところをちゃっかりと使っているような
コピーを目にしたのだが…
★今回のなコピー。
安心へのこだわりはゆずれません。
ドイツ生まれですから。
アリアンツ生命保険の広告より。これまたずいぶんと
ザックリした物言いである。ボディコピーには、
同社の商品を、堅実や職人気質といった
ドイツについてのイメージらしきものと結び付けている。
説得力があるんだかないんだか判断に困るのだが、
これが生命保険でなく、工業製品だとクラフトマンシップ
のイメージがあるから納得できるけどねー。
とはいうものの、すでに知覚されているイメージを
利用するというやり方もポジショニングの手であるから
アイデアは参考にしたい。
「ポジショニング戦略」の筆者は、ジャマイカの観光促進
のための戦略を依頼されたときに、コンセプトとして
“カリブ海のハワイ”と考え、バハマやヴァージン諸島といった
同じカリブ海の競合との違いを際立ようとした。
もちろん、ジャマイカのロケーションがハワイに
酷似しているという強みがあったから。
ちゃっかりとハワイのイメージを利用したんだね。
だが伝わるスピードは相当に速い。効率的だ。
パリやロンドン、ローマに比べて観光地として
パッとしない(と思われてきた)ベルギーの航空会社は、
「ベルギーには、アムステルダム5個分の魅力があります」
という広告でキャンペーンをした。大反響だったとか。
ベネルクス三国(←言える?)内に、ミシュランの三ツ星都市
が6つ、そのうち5つがベルギー、残り1つはアムステルダム(オランダ)
という事実を発見し、それを利用したのだ。
ここでもちゃっかりと人気の観光地アムステルダムを利用し、
ミシュランというご威光をさらに輝かせることで、
強力なツートップが誕生、決定力不足を解消したのだ。
さぁ、そろそろお気づきだろうか?
マーケティングも広告も、そして人生さえも、
“ちゃっかり”した奴のほうが先にいっていることを。
どちらかというと“うっかり”している
僕やあなたが、世知辛い世の中を渡っていくには
いまこそちゃっかりとポジショニングをやるべきなのだ。
(こら、セコイって言うな。)
ところで、ドイツ関連の広告をもうひとつ発見。
ビールの本場、
ドイツで
金賞
サッポロビールの広告からであるが、特定の銘柄が
受賞したのではなく、協同契約栽培という取り組みが
受賞したのだ。
この賞の価値がどんなものなのかは分からないが、
ビール、ドイツ、金賞というのはなんだか
すごそうなイメージ。ビールの美味さも脳内増幅しそうです。
おまけ
対抗型ポジショニングの広告として成功した
エイビスの広告(byDDB)。
「エイビスは、ナンバー2のレンタカー会社にすぎません。
それなのに使っていただきたいワケは?」
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