暮らしに役立つ需要をどうぞ。 | ★コピーライターが思わず ! となったコピー。

暮らしに役立つ需要をどうぞ。


需要を創造します。
 
と、新聞見開き2面(しかもカラー)にで~んと
広告が載った。秋ごろの話。
長ーいカゴにクルマ、電気製品、食品、
化粧品など商品が詰め込まれているビジュアル。
 
なんのこっちゃい?とよく見たら、宝島社の女性誌の
広告だ。女性誌といっても最新号の案内ではなく、
いかに部数が伸びているかが前年比163%UPと
いう感じで強調されている。その傍らにある
 
売れている女性誌は、読者の購買意欲を刺激する。
それが女性誌の力。

 
とサブのヘッドラインを読んで納得。
 
ああ、なるほど。広告媒体として訴求しているのだ。
日本経済新聞に「SWEET」や「Spring」の広告というのは
珍しいなと思ったのだが、これならわかる。
それでも媒体に媒体の広告って珍しいんじゃない。
 
読者にではなく、日経を読んでいる企業の経営者や
マーケティングの担当者へ訴求したいのだ。
うまいことを考えたものだ。
 
雑誌は不振、雑誌は終わったとひとくくりに
言われることが多いけれど、そうじゃない
ケースもあるということだ。
 
そういえばこの雑誌も異色かもしれない。
ゆるがない信念というのかなぁ。
部数や台所事情まではうかがい知ることが
できないけれど、広告にたよらず、
コンテンツで勝負します
という心意気で長い間続いてきた、
そのあり様はすばらしいと思います。
 
今のような物事のサイクルの変わり目、
自分や社会を見つめなおすことが
必要になっているこの時期には、
ぴったりだと思うのですけどね。
 
 
★今回のビックリマークなコピー?
 
 
これは あなたの手帖です
いろいろのことが ここには書きつけてある
この中の どれか 一つ二つは
すぐ今日 あなたの暮らしに役立ち
せめて どれか もう一つ二つは
すぐには役に立たないように見えても
やがて こころの底ふかく沈んで
いつか あなたの暮らし方を変えてしまう
そんなふうな
これは あなたの暮らしの手帖です

 
 
雑誌「暮らしの手帖」の理念なのでしょう。
毎号、おもて表紙をめくったすぐ次のページに
書かれている。
数年前、この文章いいよねと知り合いが
教えてくれたのがはじめての出会い。
 
ただ雑誌の名前は知っていたけれど、
自分には縁がなさそうだし、そのことで
特に興味が湧くこともなかったので
しばらく忘れていた。
でも、なぜか最近「あれ、いい文章だったな」
と急に思い出したわけ。
 
「暮らしの手帖」について、いくつか知った
ことはというと、
まず広告(自社商品をのぞく)がないこと。
つまり広告収入にたよった雑誌ではない。
 
それと、戦争というものが大きく影響していること。
「暮らしの手帖」は大橋鎭子さんと花森安治さんによって、
昭和23年誕生した。(その時は「美しい暮らしの手帖」)
 
大橋さんは戦争中、防空壕のなかで、自分が見たい、知りたいと
思うことを本にすれば、戦争で学校も満足に行けなかった
多くの女性たちに喜んでもらえるだろうと考えていたという。
また、花森さんは、戦争への反省から、一人ひとりが自分の暮らしを
大切にすることを通じて、戦争のない平和な世の中に
したいと考えていた。
(「暮らしの手帖社」WEBサイトより
 
ライターの永江朗さんが「暮らしの手帖」について
書いている。その中でとても印象的だったのが
この一節

『暮しの手帖』は戦争への反省から生れたといってもいい。
日本人があの愚かで悲惨な戦争にのめり込んだのは、
一人ひとりの生活を大事にしなかったからだ。
具体的な日々の生活よりも、抽象的な「八紘一宇」
だのなんだのという言葉を重んじた帰結だった。
 
これを読んで思ったのは、昨今世の中で起きている
悲しいことや、やりきれない問題の原因も、案外と
一人ひとりの生活を大事にしなかったからではないか。
それが大きいのでないかということ。
 
おそらく自分の中でも、それと似たようなことを
感じていたのだろう。しばらく忘れていた上の文章を
急に思い出したのもそれと関係あるんじゃないか
と思った次第だ。
 
ところで、気づいただろうか。
上の文章には句読点がない。
句読点なしには考えられない広告のコピーばかり
接している者から言えば、不安定というか
落ち着かなさのようなものを感じるものの、
文章の並びや長さによい佇まいもあり、
新鮮であるしひらがなと漢字の配分がよく、
きれいに見える。詩のような感じ。
 
そして、何よりメッセージがいい。
主役が「あなた」であること。
これはコピーを
考える際の大切なことのひとつ。
「わたしがどうこう」ではなく、
「あなたにとってどうこう」。
そう言わないと動くものも動かない。
 
また、広告や雑誌の見出しによく見られる、
腹をすかしたドーベルマンのようにガツガツ
した感じとは反対のつつましい
文体ではあるが、強い信念を感じさせてくれる
表現もよい。
ガツンとではなく、すーっと伝えるから
抵抗なく入ってくる。
 
「これは あなたの手帖です」ではじまり、
「暮らしに役立ち」「暮らしを変える」という
価値を伝えて
「これは あなたの暮らしの手帖です」でしめる。
平易な言葉、わかりやすさ。でもしっかり伝わり、
興味をもってしまう。簡単に書けそう?
いや、そうはいかないと思う。
みごとな文章、そう思いません?


 
 
僕が買った号に載っていた「煎り酒」という
調味料。しょう油が庶民に普及するまで
使われていた江戸時代の代表的な調味料。
日本酒と梅干とかつおぶしで作るから、
梅干しの酸味とほのかな塩気、そしてお酒のコクに
かつおぶしの香りがふわ~っと。
淡白な食材に合うし、隠し味にもよろしいかと。
ためしたくなりました。
 
たしかにすぐに役立つものではないが、
はじめての味わいに出会えるわけだ。
食べることが楽しくなりそうな予感。
うん、たしかに暮らしを大切にしたくなる。
 
需要を創造することも、
暮らしを大切にすることも大事。
そのへんは広告のコピーにも
通じるような気がするのだな。