彼女と私の不都合な事情 | ★コピーライターが思わず ! となったコピー。

彼女と私の不都合な事情

ありがちな話である。しかし、直に
当事者から聞くと、やはり感情が皮膚感覚で
伝わってくるから面白い。
(ツイッターで実況すると盛り上がったのかなー)
 

昨年、暑くもなく寒くもない頃だったか、
電車に乗っていたときのこと。
二人連れの女性が乗ってきて、座っている私の前に
立った。バッグの中に教科書らしきものが、
突っ込まれているようで、身なりや年齢の印象から
大学生、あるいは専門学校生とみた。

 
はじめは、他愛もないおしゃべりをしていたようだが、
やがて、一人が「いま、彼とうまくいってなくて…」
と話しだした。ぴくり。とたんに私の耳はダンボになる。
「えー、そうなんだー」ともう一人が応えると
彼女はとつとつと話しだした。

 
ちょうどいいタイミングで隣の席があいた。
そこに彼女たちが座った。うん、そういう話は腰を
落ち着けて聞きたい、ではなく話したいもの。
彼女が話はこういうことだ。

 
最近、彼女はカレとうまくいっていない。
理由は話さないので分からないが、彼を責めている
感じはなく、彼に大きな原因があるようではないようだ。
それに、次のような話にすぐ変わっていったからだ。
最近らしいが、彼女は元カレと再会した。
(ここで、聞き役の彼女も私もえー!と驚く)

 
彼女は東京暮らし、元カレは東京には住んで

いないが、郷里は彼女と一緒である。
その元カレが東京に出てくるという。同窓会のような
集まりがあるらしく、そこに出席するらしい。
そんな連絡が彼女にあった。

 
集まりの日、二人は再会した。
ほかの友だちとも会えて楽しかったようだ。
彼女は楽しいとは言わなかったけれども、声の調子が
楽しそうだもん。ところがその声のトーンにちょっと陰りが。

 
私は本を読みながら、盗み聞きしていたので
ページが全然進んでいない。
聞くことに集中するために寝たふりをきめこんだ。
さて、一次会、二次会と楽しい時間が過ぎて、やがて
お開きになる。夜も遅い時間のようだ。彼女は
元カレと二人きりになった。元カレは翌朝に帰るという。

 
そういうわけなので、24時間営業のファミレスなどで
時間をつぶすという。そして彼女にもうすこし付き合って
とおねがいをした。

 
核心に近づいてきたなーと思っていたら、私の降りる駅も
近づいてきた。はたしてその顛末を最後まで聞けるのだろうか。
と、続きは後半で。その前にお知らせをどうぞ。
 
 
★今回のビックリマークなコピー。
 
 
「やりたい。好き。愛してる。」
「好き。愛している。やりたい。」
この順番、あってる?
 
 
うん、おおむねあっている。
映画『男と女の不都合な真実』の広告より。
コピーだけだと分かりにくいと思うが、
主演男優(ジェラルド・バトラー)の写真に
「やりたい。好き。愛してる。」が、
主演女優(キャサリン・ハイグル)の写真に
「好き。愛している。やりたい。」が
添うようにデザインされている。
 

つまり、男と女の気持ちがそれぞれ

語られているわけだ。
もし、私が電車の彼女と元カレの再会の場に、
居合わせたなら、大丈夫?」とこの広告を
見せていただろう。

 

理性と本能、上半身と下半身、
天使と悪魔。毎日、たくさんの葛藤の中で
選択が求められる。彼女、元カレはどうだ。
話は戻る。彼女の話も佳境に入りかけて
いるのだが、私ももうすぐ下車せねばならない。
あせった私は言った。

 
「ご歓談中すみませんが、もうすこし話を急いで
もらえないでしょうか。実は先を急ぐのです。
このまま結末を知らずに終わってしまう
かもしれないのです」と。もちろん、心の中で。
電車は各駅停車だが、話のピッチは急行で
おねがいしますという感じ?

 
そんな私の気持ちを無視しながら、彼女は話を続ける。
ファミレスだか、居酒屋だかに元カレと入った。
そこで、元カレは「いまの彼女とうまくいっていない」
と思わぬことを言った。さらにまだ彼女に未練があるという。
このくだりを話している途中、彼女は声をつまらせた。
思い出してつまるくらいだから、

その時はかなりぐらついたことだろう。

 
さらに元カレは帰るまで一緒に一緒にいたいと言う。
娘さん、よく聞きなよ。「やりたい。好き。愛してる。」
たぶん男はキックオフ態勢だ。

 
二人は店を出てしまう。この頃になると、
彼女の声も小さくなって聞き取りにくくなってきた。
店を出た理由ややりとりが分からない。しかし、
とうとうクライマックスがやってきた。
どうやら、二人はラブホテルらしき
場所に入った。

 

この時、聞き役の彼女も「えー!」と
声を上げる。さぁそれからどうなったという時に、
間のびした車掌のアナウンスが駅名を告げる、
電車が私の降りる駅に着いてしまった。
ロスタイムなし。歴史は夜つくられるというのに。

 
もう少し先まで乗って結末を聞くかとも思ったが、
仕事の打ち合わせなので遅れるわけにはいかない。
仕方なく私はその駅で降りた。下車した後、振り返ると
彼女たちは話を続けていた。

 
その時、彼女たちが私の方に顔を向けて、
にっこり笑って言った。「続きはWEBで!」
…そうなったらどんなに良かったのにと妄想しながら
走り出した電車を見送った。
脳内に相川七瀬の歌「彼女と私の事情」が
流れてきた。(これはウソです)

 
結局、話の顛末は聞くことができなかった。
しかし、冒頭の彼女の発言からすれば、
今のカレとはうまくいっていないが、
別れたわけではない模様。
この夜のことが原因かもしれないし、
別の理由かもしれない。

 
また翌朝、元カレはスッキリして帰ったのか、
悶々としたまま帰ったのかもわからない。
確かなのは、彼女の悩みはいまだに
続いているということ。

 
カタルシスを逃し、スッキリしないまま
私は待ち合わせ場所に向かった。遅刻はしなかった。
しかし、一人が遅れてくるという。
おやおや、こんなところでロスタイム。
盗み聴きした罰か。神様はいじわるだ。