謝ってすむ話ではない | ★コピーライターが思わず ! となったコピー。

謝ってすむ話ではない

前回は負け組というか出遅れ組が
キャッチアップするときの第一声に
ついての話だったけれど、
今回は勝ち組の第一声について考えてみる。
 

売れているのであれば、特に手を打つ
必要ってないんじゃないなんて思うかも
しれないが情報量の状況をみると
悠長にかまえているわけにも
いかないのでは。
 
うすうすと気づいてはいたが、かなり
やっかいな状況だと思う。情報の流通量が
大変なことになっている模様だ。

 
こんな数字があるそうで、
平日のニューヨークタイムズ紙に書かれて
いる情報量は、平均的な17世紀のイギリス人が
一生に得る情報量より多いとか。

平均的なサラリーマンは、1年間に70kgのコピー
用紙を消費する。これは10年前の2倍の量とか。
 

総務省の調査によると、

平成20年度の流通情報量は一日当たり
DVD約2.7億枚相当(想像つかない!)。
平成19年度には前年度より約3700万枚、
平成20年度には前年度より約4500百万枚相当の増加。
 

あまりの量に、実感ができないけれど
毎日僕たちは膨大な量の情報を、ものすごい勢いで
浴びていることは確か。ドラックだったら、
完全にオーバードーズ、たぶん壊れますよ。

 
だからといって、人間の脳の記憶能力が格段に進歩
したとか、1日が7分3秒伸びたなんてことは聞かない。
おまけに脳は忘れるときたもんだ。いくら
たくさんの情報を消費したいと思っても、限られた
記憶容量と時間の中では限界があるわけ。

 
たしかにネットだのモバイルだのメディアが増えて、
情報を伝える、受け取る方法は増えたけれど、
それにともなって情報流通量も増えているわけで、
その中で注目を引くのはとっても大変だ。
 

とりわけ宣伝ということになると、つねに必要と
されている類の情報ではないため、受け手にとって
プライオリティは低い。
それでも、市場に継続的に情報を届けるのをやめると
すぐに忘れ去られるどころか、はじめから存在しなかった
と知覚されてしまう始末だ。
 

企業の中の人が、狂ったようにツイート(まさに
ツイート&シャウト!)したり、ブログを更新する様を
聞くにつけ、無間地獄に落ちた亡者のようだと
気の毒に思えてくることもある。
たとえ、ウチは売れてますからとか、人気ありますからと
勝ち状況であっても、あぐらをかいていると
すぐ忘れられる、そんな状況になっていると思う。

 
大抵の人は、先週降った雨のことなんて、大雨で

ない限り覚えてない。

広告のメッセージなんてその程度。
以上のようなやっかいな状況のもとどうすべきか。
 

お客さんの脳と時間の奪い合いに、勝ち組も負け組
もない。勝ち組も先行組も油断は禁物。
勝ってカブトの緒を締めよ。ゆるんだフンドシは
締め直す。そう、グッとTバックのようにケツに
くい込ませるのだ。勝ったら(それが局地戦でも)、
高らかに勝利を宣言しよう。お客にも競合にも
誰がチャンピオン(暫定であっても)か知らしめよう。
 

ドラッカー先生だって、こう言っていますよ。
 

‘何によって憶えられたいかね’
 

ま、ちょっとズレた引用になっていますけれども、
どんまい。とにかく、憶えてもらうことが
昔よりずっと困難になった。いや、これからは
もっと困難になったりして。
私もあなたもはそんな時代に生きておりますぞ。
 
 
★今回のビックリマークなコピー。
 
 
これからは、
ご不便なくお買い求めいただけます。
 
 
前フリがちと大げさ過ぎたけれど、
先を走っていようが、キャッチアップしようが、
つねにメッセージは届け続けなければいけない
という話。めんどうでやっかいだけれど。

 
で、これは無煙タバコ、ゼロスタイルの広告から。
タバコをたしまないので、無煙タバコなんてものが
あることを知らなかった。まさに、無縁タバコって感じ?
むかし、同じようなメッセージの広告があったね。
プレイステーションの売れすぎの謝罪?広告。
 
★コピーライターが思わず ! となったコピー。-plast
 
このタバコの広告のコピーでも、
品切れになったことを「お客様には大変ご不便を
お掛けいたしまして、誠に申し訳ございませんでした」
とお詫びをしている。
 

ちゃんと謝っているから誠実だなーと受け止める
こともできるけれど、ついその奥にある
メッセージを嗅ぎ出してしまう。
表面上はお詫びの広告、でも本当は勝利宣言だよね。
だって品切れになるほど売れています!と聞こえるもの。

上のプレステの広告もそう。
 
たしかにバンバン売れてますと言いたいけれど、
品切れで買えない人がいるわけだから、自慢が先に
出ちゃうと買えなかったお客さんはイラッとくるよね。

 
まずはお詫びで不満を鎮めてたい。
だから、不快感を与えないよう頭をたれながら
下からズンと入って、そしてぐぐっとゆっくり頭を
上げて最後にニッとスマイルするいんぎんな作法。
 

先人は良いことを言った。実るほど頭を垂れる稲穂かな。
謙虚に、謙虚に。でもここはちゃんと勝利を宣言すべし。
まぁスマートなやり方だこと。

 
もっとも、最初から少量しか用意しておらず、
すぐに品切れ、売り切れ状態を作り出して、
飢餓感を演出したり、注目をひくことも
可能なわけで、ついつい勘ぐってしまうことも
あるにはある。
 
考えてみれば、品切れでご迷惑かけています、
生産体制を整えますのでいつまでお待ちください、
お待たせしました、いつには入荷できます…
なんてお知らせというのは、お客を大切にする
お店や会社で当たり前のようにやっていること。

 
自社のサイトや公式ツイッターなどで直接
アナウンスすればいいことだし。でもそれは
お客さんとのコミュニケーション。
ところが、こうしたアナウンスを広告でやると
メッセージが違ってくる。

 
つまり、メッセージの意味合いがヒットの
喧伝へと転換してしまうのである。

言ってることが同じにも関わらずだよ。
つまり、その商品を知らない人、関心のない人
には、売り切れになるほど売れている商品という
ことを知覚させることが期待できるというわけ。

 
それは同時に競合へのけん制にもなる。
たとえ競合の商品も売れていたとしても、
それを言わないと、人々は知覚していないので
売れていないことと同じ。

競合が発信していなければ、優位に立つことも可能。

 

最終的にその商品がどのくらいヒットしたか
どうかはあまり関係ない。

たしかよく売れていたよねと記憶させる

ことが大切だ。

いわば知覚の奪い合い。

 

知覚と事実は必ずしも一致しないこと

なんかたくさんあるけど、
それも検証しようするヒマな人は少ない。
言ったもの勝ちというと身もフタもないけれど、
そういう戦法もあるってこと。
 
ベストセラー商品がダメ押しのように定期的に
売れていますとデータを出したり、ユーザーの賞賛を
載せて広告しているのをたまに見かける。

売れ行きをさらに伸ばすという目的もあるけれど、
そうしないとすぐに忘れられてしまうからという

忘却対策でもある。

 
最初に言ったように、僕たちの脳の記憶容量や
記憶力、それに時間は限られている。
そのくせ脳は、つねに新しい情報に飢えている
らしい。供給はしなければならぬ。

 
一方で、情報流通量だけは増え続けている。
すでにけた違いのオーバーロード状態。
重度の、死ぬ一歩手前のヤク中のような
状況になってしまっている。

 
そんな時代の宣伝は、毎日、選挙区を走って
名前を連呼する選挙カーのごとく、市場へ
情報を届け続けなくてはいけない。
それは負け組、キャッチアップ組も
勝ち組、先行組も変わらない。

 
ね、まことにやっかいな状況でしょ。
もう一度、ドラッカー先生の言葉を繰り返す。
 

‘何によって憶えられたいかね’
 

もちろん、これは自らの成長を促す
(強み、卓越性の追求)問いではある。
でも、広告の教訓みたいでもある。