手回しのいいやつが生き残るとか | ★コピーライターが思わず ! となったコピー。

手回しのいいやつが生き残るとか

地震直後から、テレビとネットにかなり
前のめりになっていたら、いつのまにか
平常心を保つことができなくなったので、
しばらく自分で情報統制をしていた。
 
ネットはともかくテレビは朝と夜にニュースを
観るていど。ワイドショー的な演出過多な
番組は観ないようにしていた。
その代わりにラジオはよく聴いていた
(ラジオ機ではなく、PCでradiko から)。

  
選んだ番組は主に音楽中心、あるいは
音楽だけが流れるプログラム(SKYFM など

ネットのラジオ番組、SKYFMはメニューが豊富)。

 

それで、あらためて気づいたのだがラジオと
いうのは他のメディアと比べて人の
温もりを感じさせてくれるようだ。
 
テレビと同じように不特定多数を対象とするが、
テレビがお茶の間のみなさーん!という感じの
アプローチが多いのに対して、ラジオはそこの
あなたへと意識したアプローチが多い気がする。
 
これはDJやパーソナリティが話しかたが
目の前の誰かに語りかけるような感じを
意識しているからではないかと思う。
横道にそれるが、広告のアプローチのポイントは、
たとえ不特定多数への呼びかけでも、
「これは私に対するメッセージだ」と思わせる
ことである。その意味では広告はラジオ的かな。
 
話を戻す。その他に温もりを感じた理由として、
距離感がある。テレビと比べてラジオの方が距離が近い。
これはラジオと聴き手の物理的な距離もある

(PCでを聴いていたのですぐとなりという感じ)。

 

それと、心理的な距離の近さ。

目の前にいる人に語りかけるように話されると、

声音や言葉づかいに気遣いのようなものを感じる。

ラジオDJは、自然にそのようにふるまうことが

できているのかもしれない。
 
特に震災直後は、話し方もかける音楽も癒しを

意識したものが多く、それだけに人の温もりや優しさを

強く感じたわけである。
ラジオはテレビよりも情報量が少ない、つまり音声のみ

なので、情報の圧迫感による負担も少なく、長時間

接していても疲れないことも優しさを感じた理由だろう。
 
速報やニュースは定期的に放送されるので、ある程度の
状況は把握できる。今回の僕のように最低限の情報収集は
必要だが情報疲れを避けたい時は、個人的にはラジオの
方がフィットしたというわけだ。
 
広告媒体としてのラジオはきびしい状況だ。
しかし、それはラジオ番組はラジオで
聴くという前提の話。
音声コンテンツという見方をすれば、面白さや楽しさは
映像にも負けていない。radikoやpodcastなどは

PCやスマートフォンで聴けるから、魅力的なプログラム

であれば支持されるのではないか。
 
またラジオディズ のような音声コンテンツ
専門のダウンロードサイトもいろいろある。
いいコンテンツがたくさん揃えば根強い人気が

期待できるし、個人的にはそうしたサービスが

たくさんあればいいなと思う。
 
その意味ではradikoが地震直後しばらくの間、
エリア開放していたのはよかったのだが、

またエリア制限したのは残念。
なんだか音声コンテンツは生き残るけれど、
ハードとしてのラジオは未来がないというような話になったが、
そんなことはなく、たのもしいラジオもあるのですよ。
 
 
★今回のビックリマークなコピー。
 
 
テレビもパソコンも、役に立たない時のソニー。
 
 
テレビやパソコンより役に立つっていったい…
と気になる表現が目にとまったものだが、これは
手回し充電ラジオの広告。

 
このラジオ、今回の大震災の影響でかなり売れて
いるようで、4月にヤマダ電機に行ったら、
売り切れ入荷待ちの張り紙が貼ってあった。
また、ソニーは支援物資として被災地にこのラジオを
3万台提供したという。
 
ただ、この広告は最近のものではなく、3、4年前の
「防災の日」に出されたものである。
「防災の日」、9月1日は関東大震災の起きた日である。
新聞では「防災の日」にちなんで広告特集が企画される
ことがあり、防災関連の商品広告が多く出される。
防災の日以外では、阪神淡路大震災の起きた1月17日にも
防災関連の商品広告をよく見かけた。
 
そうした時期には、人々の記憶が想起されるので
(リマインド効果といいます)、ふだんよりも
商品への需要が高くなると見込んでいるわけだ。
たぶんこの先、3月11日にも同じような状況を
見るのではと思う。
 
ところで、なぜ役に立たない時の充電ラジオと言わずに、
ソニーと言っているのか。考えられるのは指名買いを
狙ったということだろう。
充電ラジオは、ソニー以外のいくつかのメーカーでも
作られている。激しいかどうかは分からないが、

競合のある市場だ。
 
そうであれば、この場合はソニーという信用力を
前に出した訴求の方が効果的だと判断したのではないか。
価格が競合より高くても、聞いたことのないブランドや
他国製よりも信用力で選ばれるとふんだはず。
 
そう考えて、充電ラジオなら安心(品質や技術)の
ソニーブランドという印象を知覚させたほうが
有利ということで、ソニーと言ったのだと思う。

 
つまりブランド力を活かした表現ということ。
ただ、充電ラジオそのものがまだ知られていない、
市場が未成熟な状況だと、ブランドの力よりも

たとえば電気がなくても使えるなど最大の

特徴を活かした訴求方法のほうが有利に

なることがある。

 
ところで、防災商品というのは、宣伝のタイミングや
表現について、なかなか日用品を売るようには
いかないものである。
災害が起きた後しばらくは、欲望が顕在化するので

宣伝にそう力をいれる必要はない。

 

力を入れてもいいのだろうが、今回のように

未曾有な事態のときには不謹慎な!なんて

声が充満しやりにくいものだ。
 
そう考えると、欲望が顕在化している時期はいいとして、
いかに潜在化している状況で印象づけるか、認知して
もらうかがカギである。いざという時に思い出して
もらうのが大切になる。

 
潜在時期の宣伝は危機感が薄いのでスルー

されることもあるし、そんな時期に頻繁に宣伝する

ほど予算も手間もかけられないというのが普通だろう。
 
それに防災商品というのは、起こるかどうか分からない
安全対策なので何事もない日々が続いていると、
優先順位が上がらずあまり欲しいと思わないものである。

 
当事者意識を持ちやすい切迫した状況にならないと人は
行動しないものだ。
だから、防災の日など関心が高まるタイミングに
広告を出しましょうと新聞社が企画するのである。
 
防災商品というのは、アウトドアという切り口から
訴求できるのでやり方しだいでは上手い宣伝方法も
あると思うし、今回の場合、現状ではまだ地震の記憶が
生々しいので、当分はやりやすい状況ではあると思う。
(通販サイトには防災商品の特集コーナーも
数多くあるようだし)
 
また充電ラジオなど電気が使えない場合の
リスク対策商品は、これからの電気事情を考えると
ある一定の高さで需要が顕在化するように思えるので
状況としては追い風だ。

 
それだけに、商機ということで競合商品も

いろいろと出てくるし、あの手この手で宣伝

してくると思うので、競争が激しくなるぶん

選んでもらえるような対策は考える必要がある。

 
特にソニーのようなパワーブランドではもなく、予算も
あまりかけられないところは、価格設定もそうだが、
コピーなど表現にもけっこう頭を使わざるを得ないだろう。
 
さて、このラジオのように手回しで充電する
ものもあれば、手書きの新聞を出し続けた話もある。
宮城県の新聞社、石巻日日新聞が作った壁新聞。
地震のために輪転機が破損したため通常どおりに
新聞を発行することができない。そこで復旧するまで
手書きの壁新聞を作って避難所に貼りだした。


★コピーライターが思わず ! となったコピー。-ishimaki
 
そのプロフェショナルな仕事ぶりがネットなどで
紹介されたため話題になり、とうとうワシントンDCに
あるニュースに関する博物館がこの壁新聞の実物を
展示することになった。
 
ただこの記事 によれば、周りは感動ストーリーとして
称賛してはいるが、当事者の石巻日日新聞社は、
地元のために当たり前のことをやっただけと

美談あつかいになったことについて戸惑っているという。
 

美談に感じるのは、それだけ大手メディアが初心を
忘れているのか、それともわれわれがメディアを
信用していないかということなのか。
 
ソニーの広告風にいえば、
印刷も配達もできない時の石巻日日新聞。
というような感じ何なんだろうが、
手回しといい、手書きといい、いざという時は
ネットがつながらないとか、電気が使えない
と泣きごとを言うひまがあったら、頭と体を
使って打開せよという教訓を感じたのであった…

 
というのはちょっとおおげさだが、
便利になれ過ぎて、問題解決能力というか
サバイバル能力が衰えていくのではと
ちと不安になったしだいである。